目次
はじめに
株式の投資に関わっていると「割安株(バリュー株)」という言葉をよく耳にしますね。割安株投資は最も主流な投資手法ですが、「○○の割に安い株式」、つまりお買い得な株式に投資するということです。では、いったい何に対してお買い得なのでしょうか。ここでは、「割安株」について考えてみることにしましょう。
1 割安株ってなに?
「割安株」とはいったいどんな株のことを指すのでしょうか。割安株は、その企業の本来の価値に対して、株価が割安に放置されている株式のことを言います。
本来の価値とは、その企業の利益水準や保有資産の状況などから判断したり、独自に算出した理論株価によって表したりするなど、絶対的な定義はありませんが、利益面からの割安度を計るPER(株価収益率)や資産面からの割安度を計るPBR(株価純資産倍率)が割安株の指標として用いられることが一般的です。PERやPBRの数値から、株価が企業価値に対して割安なのか割高なのかを判断するというわけです。
2 なぜ割安株は注目されるの?
割安株には、人気がなかったり注目されていなかったりする株式が多く含まれていることもあり、このような株式を見つけて他の人よりも早く投資することができれば、他の人が割安であることに気づいて投資を始め、株価が上がり始めた時には値上がり益(キャピタルゲイン)を手にすることができます。多くの投資家がこの「割安株」探しをしているのは、そのためです。
世界的に著名な投資家、あのウォーレン・バフェットは割安株への投資によって成功をおさめたと言われています。バフェットは、株式市場が暴落した時や景気低迷時、経営自体には問題ないものの諸事情により株価が暴落した時などをチャンスと考え、割安だと思った株式に積極的に投資を行いました。そして、これらの株式が値上がりした時に売却し、多額の利益を得たのです。世界長者番付トップ10の常連であるバフェットの成功によって割安株(バリュー株)投資はより一層注目されるようになりました。
なお、割安株に対して、その対比としてよく用いられるのが「成長株(グロース株)」です。成長株は、売上や利益が増えており、今後も継続的に成長が見込まれる企業の株式のことを言います。一般的に広く知られている大企業よりも、新しい産業などであまり景気に左右されることなく成長が続くことが予想される新興企業などが該当することが多いです。
なお、割安株(バリュー株)と成長株(グロース株)のどちらの株価がより上昇傾向にあるかによって、株式市場の状況は「バリュー相場」か「グロース相場」のどちらかに判断されます。
3 割安株を探してみよう
では、実際に割安株を探してみましょう。割安株の指標として、いくつか代表的なものを見てみましょう。
3.1 PER
3.1.1 PERを算出してみよう
PER(price earnings ratio) とは、『株価収益率』のことであり、株価が一株あたり利益の何倍かを表したものです。PERは、最もよく知られている株価指標の一つですが、割安株を判断するうえでも一番よく使われています。
算出式は以下の通りです。一般的には、数値が高いほど割高、低いほど割安とされます。
PER = 株価 ÷ 一株あたり当期純利益(EPS)
あるいは
PER = 時価総額 ÷ 純利益
EPSとは、当期純利益を発行済み株式数で割ったものです。EPSには、前期実績(すでに決算で確定した数値)を用いる場合と当期予想(期末の利益を予想した数値)を用いる場合がありますが、投資では予想EPSを用いるのが一般的です。
PERは、利益が内部留保されずにすべて株主に配当されたとした場合に、どれぐらいの期間で投資金額(株価)が回収出来るかを表していると考えることができます。また、現在の株価が何年先までの利益を含んでいるかを表しているという見方もできます。PERはフローである純利益と株価の比較により、収益面から株価を判断する指標なのです。
3.1.2 PERが割安かを判断してみよう
では、ここで算出したPERが割安かどうかはどのように判断するのでしょうか。先にも述べたように、PERが低いほど株価は割安であり、高いほど割高であるとされており、だいたい14倍~20倍を標準値とすることが多いようです。ただし、株式市場全体のPERは景気によって変化するため、絶対的な数値基準はなく、PERの数値を同業他社やその会社の時系列で比較し、相対的に判断します。
3.2 PBR
3.2.1 PBRを算出してみよう
PBR(price book-value ratio)とは、『株価純資産倍率』のことであり、PERと並んで最もよく知られている株価指標の一つで、割安株を判断するうえでもよく使われています。PBRの数値が高いほどその銘柄の株価は割高で、低いほど割安とされており、以下の式によって算出することができます。
PBR = 株価 ÷ 一株あたり純資産額(BPS)
あるいは
PBR=時価総額 ÷ 純資産
この式で用いられている一株当たり純資産額とは、株主の持ち分である純資産を発行済株式数で割ったものであり、会社が解散した場合に株主に分配される一株あたりの金額を表しています。つまり、PBRとは、その会社が保有している純資産(総資産から負債を引いたもの)に対して、市場が何倍の評価をしているかを表しています。
3.2.2 PERが割安かを判断してみよう
一般的に、PBRの目安は1倍とされています。PBRが1倍、すなわち株価と一株当たり純資産額が等しいということですが、これは投資金額と解散価値(会社が解散した時に株主が得られる価値)が等しいということを意味しています。理論上は会社が解散することによって投資した金額以上の金額が戻ってくることはないということから、1倍が目安と考えられており、これを下回れば割安だと判断されるのです。PBRが1倍以下であれば、理屈の上では会社が解散した時に投資金額以上の金額が戻ってくるので、利益を獲得することができるため、というわけです。
3.3 理論株価
PERやPBRの他にも理論株価によって割安かを判断することもあります。アナリストは、よく独自の理論株価を算出して投資の判断に用いたりしていますが、理論株価は、PERやPBRのように決まった定義があるわけではなく、それぞれが株価形成に関係すると思われるさまざまな要素を加味して、独自に算出するものです。例えば、PERとPBRの要素を半分ずつ取り入れた算出方法やさらに成長性を加味したものなどもあります。要素に加えて、より自分が重要と思われる株価指標のウェイトを重くしたりするなど、算出方法は実に多様です。投資経験が豊富な方は、このような理論株価を自分で算出してみるのも面白いかもしれません。
4 割安株ランキング
このように算出されたPER、PBRですが実際にはどのような企業が上位にきているのでしょうか。実際に自分で計算するとなると、データが入手しづらかったり、面倒だったりしますが、PERもPBRも最もよく利用される代表的な株価指標の一つということもあり、Yahoo!ファイナンスや証券会社のホームページなどから、無料で簡単に調べることができます。
特に証券会社のホームページは、スクリーニング機能があるところも多く、個別の株価指標のランキングだけでなく、独自に条件設定して複数の指標を組み合わせて検索することも出来るので、投資する企業の絞り込みを行うにはとても便利です。
【Yahoo!ファイナンス】
>>低PERランキング
【証券会社のホームページでスクリーニング機能を使う】
>>SBI証券に口座開設(無料)
>>楽天証券に口座開設(無料)
5 本当の割安株とは?
このように低PERや低PBRの企業をリストアップして投資する前に、注意すべきことがあります。あくまでも低PERや低PBRで見つけるべきなのは、業績や資産内容のわりに市場からその企業の価値を見落とされていて、評価が低くなってしまっている企業だということです。
リストに挙がってきたとしても、業績が悪化することが予想されていたり財務状況が悪かったりするなどで今後の業績に不安要素がある場合や、自動車産業のように景気の影響を受けやすく利益の変動によるリスクが大きかったりする場合など、必ずしも本当の意味で割安とは言えない場合もあります。業績や資産内容、将来予想に問題はないか、市場や同業他社、その会社の過去等の数値と比べてどうかなど、数値基準だけでなく相対的な視点でもよく吟味するようにしましょう。
また、一つの指標だけでなく複数の指標を組み合わせることによって、本当の意味で割安とは言えない株式に投資してしまうというようなリスクを軽減することもできます。例えば、大きな経営不安や将来赤字が予想される場合、また資産が不良債権などにより実際はもっと少ないと考えられる場合などは、その情報が株価には反映されるものの一株当たり純資産には反映されないため、低PBRの企業としてリストアップした中にはそのような企業も入ってくる可能性があります。一方で、PERを予想EPSを用いて算出していれば、低PERのリストからは外れてくるので、低PERと低PBRの両方を満たしたもの、という条件を付ければ、このような企業は投資対象から除くことができるのです。
6 割安株のパフォーマンスは?
それでは、実際には割安株のパフォーマンスはどうだったのか、過去のデータを見てみましょう。
以下は、TOPIXバリュー(割安株)とTOPIXグロース(成長株)の2つのインデックス(株価指数)の推移をグラフにしたものです。この2つのインデックスは、TOPIXスタイルインデックスシリーズのうちの2つであり、いずれも連結PBR等によってTOPIXの構成銘柄をバリューとグロースに二分して作成されています。なお、グラフの期間は東京証券取引所が定めるこのインデックスの基準日である2008年11月25日から2018年2月22日までとしています。
(出所:日本取引所グループホームページより株1編集部が作成)
これを見ると、過去10年ほど、特に直近5年は、割安株より成長株の方がパフォーマンスが高く、いわゆるグロース相場であったと考えられます。主な要因としては、低PBRでは代表的な存在である銀行などの金融が、超低金利の長期化によって業績が厳しい状況が続いていることから、株価が低迷し割安株のパフォーマンスが低くなっている一方で、成長株は情報通信関連企業の業績が好調であることによって、株価が上昇しパフォーマンスが高くなったため、と考えられます。
ただし、この結果から割安株に投資しても高いパフォーマンスが得られないのではないか、と考えるのは早計です。先ほども述べたように、低PBRだけの算出方法では本当の割安株が探せない可能性があります。理由のはっきりわかっている金融株を除いたり、低PERなどの複数の指標からスクリーニングしたり、数値基準だけでなく相対的な視点から選んだりした割安株であれば、このインデックスとは異なるパフォーマンスになるかもしれません。しっかりした根拠に基づいて選んだ割安株であれば、そのうち株価が上昇し、一定のパフォーマンスを得ることができる可能性も高くなるはずです。
7 おわりに
いかがでしたか。割安株投資は、バフェットのような著名な投資家が用いるような、とてもよく知られている投資手法である一方で、理論がシンプルであるため、株式投資の初心者でも十分に理解しやすく取り入れやすい投資手法でもあります。投資をするにあたっては、人からおすすめされた企業や情報を鵜呑みにするのではなく、自分自身で納得がいき、理解している考え方によって企業を選ぶのが大前提です。株式投資を始めたいけれど、何を買ったらいいかわからない、という方はぜひ参考にしてみてください。