株式投資を始めて間もない方、あるいはこれから始めようと考えている方の中には、「株価は下落するから怖い」という漠然とした不安をお持ちの方も多いと思います。ここでは、株価の下落要因や下落してしまった時の対策、株価下落による資産減少の予防策を理解していただけるようご説明したいと思います。
目次
1 株価下落の原因は様々
株価の下落は、保有している株の資産価値が目減りすることになりますので、株を始めて間もない方だけではなく、ベテランにとっても非常に嫌なものです。ただし、原因が分かっていれば、将来への希望が持てますので気持ちも楽になります。
さて、株価はなぜ下がるのでしょうか。最もシンプルな解答は、その株を「買いたい人」よりも「売りたい人」が多いからです。つまり、需要と供給の関係ということになります。
では、どのような時に「売りたい」と考える人が多くなるのでしょうか。景気が悪くなるというニュースが出た、海外の株価が大きく下がった、突然の大型倒産が発表された、業績の下方修正が発表された等、企業の業績にマイナスに働く「悪材料」が多くなると、この株は将来下がる可能性が高いと考える人が増えて株価は下落します。
「悪材料」は、経済全体の問題から業界特有の問題、特定企業の独自要因まで様々です。「中国の経済が混乱して世界経済全体が減速する」というニュースは、個別企業の努力ではどうしようもありません。株式市場全体が“全面安”になる「悪材料」となります。
一方、「急速な円高が進展」というニュースは、輸出企業にとっては海外向け売上の減少や採算悪化となることが多いため「悪材料」になりますが、輸入企業にとっては、輸入価格の低下により利益率が改善するため「好材料」となります。つまり、業界特有の問題ということです。また、ある企業が不祥事を起こし、株価が急落したという場合は個別要因となります。このような状態を“独歩安”とも言います。
株も人間と同じで様々なタイプが存在します。学生時代を思い出してください。数学は得意だが国語がまったくだめな人、英語、体育はできるのに数学はまったくだめな人など、同じ年齢でありながら性格、個性はそれぞれで、1人として同じ人間は存在しません。株式市場も業界ごと、企業ごとに様々な性格、個性を持ち合わせています。このため、「材料」に対する株価の反応は、業界ごと、企業ごとに異なったものとなるのです。
2 対策:損切りすべきか、耐えるべきか
それでは、自分の持っている株が下落した時はどうすればいいのでしょうか。有名な相場格言として、「登り百日、下げ十日」というものがあります。上がる時は時間がかかるのに、株価下落は一瞬であるという意味です。言い換えれば、下げは突然訪れることが多いということです。
ここで大切なのは、まずはあわてないことです。保有している株価が下落した理由を冷静に考えましょう。下落要因が経済全体の問題であれば、今後、その問題が長期化する可能性があるかどうか、専門家の意見に耳を傾けましょう。また、業界や個別企業固有の要因である場合も、その問題が一時的なのかをよく考えましょう。
特に株価が急落した直後は、株式市場に発信される情報が弱気一辺倒になりがちです。このため、なるべく多くの情報や意見に耳を傾けて客観的な判断ができるよう心掛けましょう。
じっくりと吟味した結果、もし下落要因が長期化する可能性が高いと思われた場合は、株価がすぐに元に戻る可能性は低いので、いったん損切り(損することを承知で、投資商品を見切り売りして損失額を確定すること)する勇気も必要です。
損を確定させてしまうことはつらいことですが、躊躇しているうちにさらに株価が下がってしまい、売るに売れない塩漬け状態になっては元も子もないからです。損切りして次の上昇チャンスに備えることも大切です。
3 予防策:相場が下落した時の影響を最小限にとどめるための方法
次に、株価の下落に備えてどのような準備をしておくべきかを考えます。
あわてない
株価が急落した時に、投げ売りをすることは避けましょう。災害の避難訓練と同じです。冷静に状況を見極めた上で、株価を売るかどうかの判断をすることが大切です(「2 対策―損切りすべきか、耐えるべきか」参照)。
分散投資
日本の株式市場には3,000社以上が上場していますが、日々、それぞれの株価は異なる動きをしています。既に述べたように、株価の変動要因には経済全体の要因だけではなく、業界や企業独自の要因があるためです。このため、1社だけ、あるいは1つの業界に集中して投資するのではなく、ある程度分散して投資することで、相場全体が下落した時にダメージを小さくすることができます。
また、買うタイミングも同じ日に全てを買うのではなく、コツコツと時間を分散して買うことで、高値掴み(高値で買った株がその後値下がりすること)のリスクを避けることができます。
TOPIX・日経インバース指数ETF
インバースとは「逆の」「反対の」という意味で、TOPIXや日経平均といった市場平均株価の日々の騰落率(価格の変化率)の▲1倍(マイナス1倍)あるいは▲2倍(マイナス2倍)に変動するように設計されたETF(上場投資信託)です。
こうしたETFには以下のようなものがあります。
- TOPIXベア上場投信(銘柄コード:1569) 売買単位:10口、対象指標:TOPIXインバース(▲1倍)指数
- 日経平均インバース・インデックス連動型上場投信(銘柄コード:1571) 売買単位:1口、対象指標:日経平均インバース・インデックス
「相場がどうも怪しい、下がるかもしれない」と感じた時に、資産の一部にインバース型ETFを組み入れておくと、相場が急落した時の損失を、ある程度軽減することができます。ただし、下がると思った相場が逆に上昇し続けた場合には損失となるので十分に注意しましょう。
VIX指数
VIX指数とは、Volatility Index の略称で、別名「恐怖指数」とも呼ばれています。シカゴ・オプション取引所(CBOE)が、米国の代表的な株価指数であるS&P500を対象とするオプション取引のボラティリティ(価格変動の度合い)を元に算出、公表している指数です。
地政学的リスク(戦争や紛争など)や金融システム危機(銀行の倒産等)といった、1企業ではどうすることもできないリスクが高まるとVIX指数は上昇します。
三菱UFJ国際投信が運用しているETF VIX短期先物指数(銘柄コード:1552)、 VIX中期先物指数(銘柄コード:1561)は、アメリカのVIX指数に円建て連動するETFで、ネット証券での売買が可能です。インバース指数と同様に、相場が下落すると上昇するため、相場が下落する恐れが高い時には資産を守るために活用することが可能です。
株式投資の初心者の方は、上記のような商品を実際に売買する必要はありませんが、現在の市場のリスク度合い(波乱度合い)を知るために、定期的にチェックすることをお勧めします。VIX指数は、こちら(米Yahoo! Finance)で確認できます。VIX指数が20を超えてきたら相場全体の不透明度合いが高まってきたとお考えください。もし、リスク度合いの上昇傾向が続いているようであれば、株投資はいったんお休みと考え、無理をせず利益確定を優先に考えましょう。
参考
初心者にはあまりお勧めできませんが、空売りという方法もあります。「空売り」は株価が高い時に売り、下がったところで買い戻すことで利益を上げる投資手法です。ただし、空売りをした時よりも株価が上昇した場合は損失となるので非常にリスクが高く、株初心者にはお勧めできません。もし、空売りについて勉強されたいという方は「株初心者は参考程度に、中級者は真剣に読んで欲しい信用取引入門」を参考にしてみてください。
4 まとめ
これまで株価の下落要因と対策、そして予防策について見てきました。株式相場や株価は常に上昇するとは限りません。むしろ「登り百日、下げ十日」という相場格言にあるように、急落することはまれではありません。
繰り返しになりますが、大切なのはあわてないことです。そのために、株価の下落要因をよく理解し、予防策についても「分散投資」など簡単にできることから始めましょう。そうすれば株初心者の方でも「備えあれば憂いなし」となり、株式投資に対する漠然とした不安を軽減することができるでしょう。