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「ストップ安」、この言葉を聞くと何が起こったのかとドキドキする方も多いでしょう。実はそれが何を指すのか、どういうものなのかはよくわからなけど、大変なことに違いない、と考えておられる方も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、株初心者のみなさんにわかりやすく「ストップ安」がどういうものなのか、解説したいと思います。
目次
1 ストップ安とは投資家の頭を冷やすための制度
株式投資の初心者の方では、ストップ安という言葉を初めて耳にされる方も多いのではないでしょうか。ストップ安は、ストップ高という言葉とともに1日の株価の値幅制限のことを指します。
値幅制限を一言でいえば、投資家の頭を冷やすために設けられた制度といえます。値幅制限は、株価が1日で異常に上昇したりや下落したりすることを防ぐために設けられています。値幅制限を設けることで、投資家に冷静な判断を施すきっかけを作り、適正な株価の形成、また投資家が売買する機会を提供していることになります。
2 値幅制限はどのように決まるのか-ポケモンGO後の任天堂で考える
前営業日の終値を基準(基準値段)として値幅制限の範囲が決まります。これではわかりにくいので、例を挙げて説明します。
ポケットモンスターのキャラクターを活用したスマートフォン向けアプリ“ポケモンGO”が米国は2016年7月6日にサービスがスタートし、7月22日に日本でもサービスが開始されたのを受けて、任天堂の株価は大きく上昇しました。
7月6日の終値が14,380円だった株価が7月19日には高値として32,700円にまで到達しました。わずか8営業日で株価は実に+127%も上昇したことになります。
しかし、その後、7月22日に任天堂からポケモンGOの直近の状況を判断しても現時点で2017年3月期の業績の(上方)修正は行わないという発表がありました(注)。
注:『Pokémon GO』の配信による当社の連結業績予想への影響について
これにより、ポケモンGOによる任天堂の業績修正があるという期待や今後任天堂の成長性を評価した投資家の買いが一転して大きく売り込まれることになりました。任天堂の発表後の翌営業日である7月25日には、任天堂は対全営業日比▲5,000円で、ストップ安となる23,220円にまで下落することになりました。
では、この値幅制限である5,000円はどこから来た数字なのでしょうか。詳細は、日本証券取引所グループのサイトに詳しいので、そちらを参照してほしいと思いますが、任天堂がストップ安になる前の基準値段(7月22日終値)は28,220円でした。基準値段が20,000円以上30,000円未満であれば、値幅制限が上下5,000円とされています。そのルールに従って、7月25日は28,220円から▲5,000円下落した23,220円にまで下落したことになります。
3 ストップ安時の比例配分(ストップ配分)とは
ストップ安気配で終了した場合、成行注文を値幅制限での指値注文として見なし、1単位(単元株数)以上の買い注文があれば売買が成立することになります。そして、成立した株数が証券会社からの注文数量に応じて比例配分されます。ただし、比例配分といっても注文株数に応じて均等割りをするのではないことに注意が必要です。
たとえば、10万株の売り注文に対して買い注文が1万株しかない場合には、1万株の買いができたこととして注文枚数を証券会社の注文数量に応じて配分することになります。
ここで十分に頭に入れておきたいのが、売り注文の数量が多い証券会社に1単位ずつ配分され、1巡しても尚割り当てが可能な場合には、2巡目で1単位ごとに売り注文の多い証券会社に割り当てがされるということです。
(例)ストップ売り気配で終了。買い数量が800株、売り数量が3,000株の場合
(1)売買成立は800株
(2)売り数量の多いA証券からE証券まで100株ずつ割当…合計500株
(3)(2)で割当て済みの500株を差し引いた残り300株をA証券からC証券まで100株ずつ割当
A証券 | B証券 | C証券 | D証券 | E証券 | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|---|
売り数量の内訳 | 1,500株 | 800株 | 400株 | 200株 | 100株 | 3,000株 |
1巡目 | 100株 | 100株 | 100株 | 100株 | 100株 | 500株 |
2巡目 | 100株 | 100株 | 100株 | 300株 | ||
割当数量 | 200株 | 200株 | 200株 | 100株 | 100株 | 800株 |
出所:株1編集部作成
4 ストップ配分後の割り当ては証券会社のルール次第
ストップ配分後割り当てられた株式の優先順位はどうかといえば、各証券会社の社内ルールによって異なります。
SBI証券であれば、発注時刻を優先し、発注時刻が同一の場合には、抽選を行い決定するとのことです。
一方、松井証券では、注文数量が多い順に割り当てられ、注文株数が同じであれば、受付時間の早い順に割り当てられます。
以下、主だったネット証券各社のルールをまとめてみました。
時間優先 | 数量優先 | |
---|---|---|
SBI証券 |
○ | |
楽天証券 |
○ | |
マネックス証券 |
○ | |
松井証券 |
○ | |
au カブコム証券 |
非公開 | |
GMOクリック証券 |
○ | |
ライブスター証券 |
○ |
出所:各社HPおよび問い合わせ回答内容をもとに株1編集部作成
こうしてみてみると、投資金額が少ない株初心者は、注文時間が優先されるSBI証券、マネックス証券、ライブスター証券のほうが割り当てられる可能性が高く、デイトレで大きな金額を運用するセミプロ投資家であれば、松井証券かGMOクリック証券のほうが、割り当ての可能性が高いといえるでしょう。
5 ストップ安後の翌日の株価の動き
ストップ安気配で終え、翌日はどのような株価の動きをするかというのは、売り注文と買い注文のバランスで決まることは言うまでもありません。ストップ安を引き起こしたきっかけのネガティブ要因の度合いによります。
その後は、テクニカル分析や株価評価(バリュエーション)によって、ストップ安になる以前の過去最安値やバリュエーションなどを参照しながら、投資家がどの程度の株価水準であればリスクをとることができるのかということで株価動向が決まります。したがって株式投資初心者がストップ安の銘柄に安易に飛びつくのはおすすめできません。
ここまで堅苦しい解説が多かったので、ストップ安について具体的な銘柄を交えながら会話形式で頭に入れたい方はどうぞ。
【コラム1:ストップ安にも淡々と投資を進める手法とは?】
優良株が暴落した時に買う。投資の極意の一つです。しかしこれが本当に難しい。ストップ安になった株を目前にすると「明日も下がるんじゃないか」「下がり続けるんじゃないか」と不安になるのが人間心理。暴落時に忙しくて投資できずチャンスを逃すこともあるでしょう。
そうした人間特有の機会ロスを回避できる可能性があるのが、ETFの自動売買
です。一つの手法として覚えておくとよいかもしれません。
【コラム2:ストップ高やストップ安の値幅制限とは-株初心者にとってはチャンスか】
ネット証券で最近口座を開設し、バランス型投資信託を購入したものの、次の資産運用は身近な日本株に挑戦してみたい55歳主婦・相場翔子(アイバ・ショウコ)さんが、新浦安の同じマンションに住む通称・株1博士(カブワンハカセ)に色々と質問をしています。株1博士は外資系資産運用会社でファンドマネージャー暦35年の65歳。
それでは聞き耳を立ててみましょうか。
相場:この前の決算でも、私の良く知る会社の株価が決算発表の翌日にストップ安となっていたのを見たわ。これは、会社の決算や業績見通しが投資家の期待を下回っていたという理解で良いのかしら?
株1博士:うん、そういうことになるな。
相場:ところで博士、ストップ安ってそもそも何なのかしら。
株1博士:ああ、それもよい質問じゃ。簡単にいうと、投資家に「頭を冷やせ」という機会を与えていると言えるかな。
相場:頭を冷やす?
株1博士:うむ。ストップ安に限らずストップ高においても、投資家がパニック的な行動を防ぐ役目もある。そうすることで株価が乱高下するのを極力抑えることもできるという訳だ。
相場:実は、ストップ高やストップ安の値幅制限についてよくわかっていないのだけれど、教えてくれないかしら。
株1博士:ああ、それは株式投資を始めようとする相場さんは知らなくても当然だ。実は、株初心者どころか、プロの投資家に質問してもすぐに「いくらですよ」という回答はかえってこない。
相場:えっ、なぜかしら?
株1博士:値幅制限は、その銘柄の株価で決まっている。つまり、その銘柄の株価が分からなければ、いくらが値幅制限かは答えられないという訳だ。
相場:さすがにすべての企業の株価は頭に入れるのは難しいわね。上場企業やETFを含めると3,000社以上ある訳だから。
株1博士:では、2015年3月期決算発表時に2016年3月期の見通しにおいて、株式市場の期待、つまりコンセンサスということになるが、それよりも低い業績見通しを出して一時ストップ安になった富士通(銘柄コード6702)で見てみることとしよう。
相場:お願いします。富士通は私にとっては、らくらくフォンで馴染み深い会社なのよね。
株1博士:富士通は、決算を2015年4月30日の引け後に発表している。株式市場が閉まるのは午後3時で、それ以降を「引け後」と呼ぶのはよいだろうか。
相場:はい、それくらいの基礎は勉強して知っています。
株1博士:決算発表では、2015年3月期の決算発表と2016年3月期の業績見通しを開示する。その数字がどうであったかというのがポイントになる。今回の富士通は、2016年3月期の業績見通しが前年比で減益であったというのが、株式市場にとっては一番の「ネガティブ・サプライズ」、つまりマイナス方向の驚きであったわけだ。これが翌日のストップ安へと繋がるのだ。
相場:はいはい、理由は分かったから、値幅制限について教えてください。
株1博士:2015年4月30日の終値は793.2円。この株価が重要だ。株価が700円以上1,000円未満の株価であれば、値幅制限は150円となる。実際に、富士通の株価は翌日、一時値幅制限いっぱいの643.2円まで下がることとなる。終値は651円であるところを見ると、投資家が頭を冷やして、ストップ安水準の株価は売られ過ぎとか、割安という判断で買いを入れたのであろう。
相場:なるほどね、値幅制限は株価で決まるのね。その株価レンジでの値幅制限を一覧するにはどうしたら良いのかしら。
株1博士:東京証券取引所などを抱える日本取引所グループのウェブサイトにはこの辺りが詳しく書かれているので参考にすると良い。株初心者にもわかりやすく書いてあるぞ。
相場:博士、ストップ安はいつもの株価より相当安くなるので、何となく買いたくなるのだけれど、株の入門者には絶好の機会なのかしら?
株1博士:それは当然銘柄によりけりだと思うが。
相場:不適切な会計があった、ということで東芝(銘柄コード6502)もストップ安になったわよね。
株1博士:ストップ安になる前日の2015年5月8日の株価が483.3円で、翌取引日である5月11日の終値が400.3円。つまり、値幅制限の80円いっぱいまで下げて引けたということだ。
相場:200円以上500円未満は値幅制限が80円なのね。
株1博士:その通り。
相場:ところで、東芝の株価が大きく下落したのは買いのチャンスかしら?
株1博士:今回の問題は、工事進行基準の認識の違いなどが争点になるだろうと思われるが、詳細は2015年5月16日時点では不明だ。売上計上の認識やタイミングは常にいろいろと議論のあるポイントだ。機関投資家のように顧客(資金の出し手)に対して説明責任のある投資家は、様子見というスタンスであろうなぁ。
相場:工事進行基準とか難しくてよくわからないけど、株初心者を含めて、私のような個人投資家はどうしたらよいかしら。
株1博士:個人投資家は、仮に決算修正の幅が軽微にとどまるという前提があるとすれば、東芝は日本のエネルギー政策にとって欠かせない企業であるということ、またNANDフラッシュメモリーはアップルのようなグローバル大手の顧客がいるということなどから、株価が下落すればチャンスという見方もできるのだろうなぁ。
相場:えっ?!エネルギー政策?東芝って、ノートPCのダイナブックや照明や白物家電の会社ではないの?
株1博士:相場さんは、まだまだ学ぶべきことがたくさんあるなぁ。続きはまたやることとしよう。
6 まとめ
いかがでしたか。ストップ安と聞くと浮足立ってしまいがちですが、そもそもこれは行き過ぎを防ぐための仕組みだということがお分かりいただけたかと思います。ストップ安を利用して売買を行う強者の個人投資家もいるようですが、ストップ安になった銘柄の値動きは通常の売買よりも一段とわかりづらいものです。不用意に飛びつかず、まずはじっくり勉強からスタートしてみてください。