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IPO株の儲けの仕組みをおさらい
株式が上場され、誰にでも自由に売買されるようになる直前に行われるIPO。これは創業者やここまで企業の成長を支えた株主が所有してきた株式の一部を一般投資家に譲ったり(売出)、あるいはその企業があたらしい株式を一般投資家に発行(募集)して成長のために資金を調達することです。
このとき証券会社が仲立ちして決める価格を公募価格といいます。その際、従来から株を持っている株主から見ると
- 少しでも高く売って、これまでの努力と成果を現金化したい
- 新しい一般株主にも会社をサポートしてもらいたい。割安に買ってもらい会社や経営陣を支援してほしい
という相反するニーズを満たす必要があります。したがって公募価格は実勢より「ちょっと」安めというのが落としどころになります。
これは、IPO投資が平均的に儲けにつながりやすいこと、あるいは短期的には大損にはなりにくいことを示しています。ところがIPOの初値(取引所でつく最初の価格)が公募価格の何倍にもなるケースの説明にはなりません。
カギは、みんなが欲しいと思うのになかなか手に入らないか、「レア」かどうかということです。
オファリングレシオで「レア」度を測る
オファリングレシオとは、上場したときに会社が発行している株数全体のうち、IPOで一般投資家にわたった株数は何パーセントか、という指標です。分母には、IPOで新株を発行するならその株数を参入します。分子には売出株数(既存の株主が一般株主に譲渡する株数で発行済み株数は変わりません)に募集株数(新株発行数のことです)を足します。
経験上、オファリングレシオの適正値は20%~30%
経験則ですが、オファリングレシオが20%~30%の場合が上場後の株価への影響が中立的と言われています。20%近辺からそれ以下ですと「レア」度が高いというわけです。逆に30%を超えてくると要注意です。
ちなみに前回(株初心者にもわかるIPOの儲けのからくり)、上場後に急騰した銘柄の一例として取り上げたサイバーダインのオファリングレシオは22%でした。
低いオファリングレシオのプラス面・マイナス面
低いオファリングレシオは何を意味するのでしょうか。市場に出回る株数が少なめですので「レア」度が高いということはお話しました。上場時の公募価格が創業者からみれば「安い」ので、「こんな価格でたくさん株を手放すのはもったいない」と考えているのかもしれません。つまり創業者や経営者の自信を示している、とも考えられます。
しかしマイナス面もきちんと認識しておく必要があるでしょう。流通する株数が少ないと流動性が下がります。会社が希望に満ち溢れるときはこれが株価のプレミアムにつながりますが、会社の見通しが悪くなると流動性がないためにディスカウント要因になってしまいます。「流動性がなくて売りたいときに売れない株を買うには相応のディスカウントが必要だ」という考え方で買いの手が引っ込んでしまいます。
また、流通株数が少ない中で特定の投資家が買い集めると、株主数が減り上場維持が難しくなるケースも出てきます。オファリングレシオが低く、市場で流通する株式が少ない株を継続的に株を持ち続ける場合は、このリスクを考えておきたいものです。
ロックアップも気にしておきたい
ベンチャーキャピタルなどは多くの場合IPOの時点では株をあまり売らず、上場後も例えば半年は売らないという取り決めをしている場合が多いです。このような取りきめをロックアップと言います。
ロックアップは本来、ベンチャーキャピタルなどが上場直後で流通量が少ない株式を大量に売却することで、株価が大幅に下落するのを防ぐことを目的としており、投資家を保護する意味合いの強い制度です。そのため、ロックアップがあること自体は決して悪いことではありません。
ただ、ベンチャーキャピタルなどが上場前に株を大量に持っているようなケースでは、上場時のオファリングレシオが低くても、ロックアップ期間終了が近づくにつれて「ロックアップ期間が終了したら大量の株が売りに出されるだろう」と警戒する投資家が増え、結果として株価が崩れやすくなりがちですので、ロックアップの有無と期間は事前に確認した上で投資するのが良いでしょう。
まとめ
これまでもお話してきた通り、IPO株投資での勝率アップには、労を惜しまずに手数を出すことが重要です。「IPO取扱い実績が豊富な証券会社は?」を参考に、IPO取扱い実績が豊富な証券会社に出来るだけ多くの証券口座を開設して、機動的に応募できるよう備えておくのが最低限の基本動作です。
証券口座の準備を整えた上で、今回お話したことに気を配っていただけると、より一層リスクを低減できるでしょう。IPOのとき会社は希望に満ちています。オファリングレシオが低ければ、レア度が高くプレミアムにつながりやすいので株価は上場後急騰するかもしれません。しかし長い目で見ればオファリングレシオが低すぎると株式の流動性不足が株価にマイナスの影響をもたらします。オファリングレシオの低い株とは賢く付き合う必要があります。
IPOのチェックポイントのひとつ、オファリングレシオの考え方を理解していただけたでしょうか。ご興味があれば、現在のIPO予定銘柄のオファリングレシオもチェックしてみてください。次回はオファリングレシオが高いケースについて具体例をまじえて見ていきたいと思います。
2015年5月1日 11:50 公開