増資と株価の関係入門

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増資のニュースで、何故、株価は下がるのか?

楽天は2015年6月4日、公募増資により約2,000億円を調達すると発表しました。変化の激しいインターネット業界の中で持続的な成長を確保するためには、増資により株主資本を拡充し、財務戦略の柔軟性を高めて、M&Aや大型投資を機動的に実行できる体制を準備しておくことが今回の増資の目的でした。

将来の成長を確かなものにするという“前向きで明るい”目的にもかかわらず、このニュースにより株価は大幅な下落に転じました。

もう一例見てみましょう。同年5月11日、減資の可能性が報じられたシャープの株価は、一時ストップ安水準まで売り込まれました。このケースでは業績悪化に加え、減資後に再び増資する可能性という“後ろ向きで暗い”ニュースが、大きな売り材料となりました。

目的が前向き(成長投資)であろうが、後ろ向き(敗戦処理)なものであろうが、増資というニュースに対しては、とりあえず株価はネガティブな反応を示す実例をご理解頂けたと思います。

保有している株が増資ニュースで売られたらどうするべきか?

増資により株価が下落した理由を一言で表すと「希薄化」に対する懸念です。希薄化とは、その文字のままで“薄まる”という意味です。

例えば、株主4人の会社を考えてみましょう。4人でお金を出し合って会社を設立し、利益も四等分で山分けしています。ところが事業拡大のために追加的にお金が必要になり、5人目の株主が入ってきた場合を考えてみましょう。5人目の株主はお金を出してくれますし、これを元手に売上を伸ばしていく計画です。でも、5人目の株主が入ったことで、目先は一人当たりの取り分は減ってしまいます。元からいた4人の中には自分の取り分が薄まる(希薄化する)ことを面白くないと思うメンバーもいるわけです。

上場企業の増資も同様です。新株発行の増加により、会社の利益額は変わらなくても、一株あたり利益は「希薄化」してしまいます。株価は、このことを嫌気して売られるのです。

増資を事前に予想することは可能か?

企業が増資を行うタイミングを予想するのは非常に困難です。なぜならば、増資は極秘の内部情報であり、外部の人間(全ての個人投資家、機関投資家を含む)が事前に知り得ることは不可能です。ただ、“この会社は将来的に増資をするかもしれない“という大まかな目星を付けておくことは不可能ではありません。具体的には、バランスシートが脆弱な会社(借入金が極端に多い、あるいは株主資本比率が極端に低い場合は要注意)、過去に増資を実施した実績のある会社(回数が多い場合は特に要注意)、多額の資金需要を伴う成長戦略を掲げている会社(アグレッシブで資金需要が必要とされそうな企業は要注意)等は、その増資規模や実施タイミングはともかく、「増資リスクの有無」を大雑把には把握可能といえます。

また、増資を行う発行体(事業会社)は、“調達額は最大に、既存株主の希薄化率は最少とすること”を考えますので、増資実施のタイミングは、株価が高値圏にある場合に可能性が高いと思われます。増資にも様々な方法がありますが、今回の楽天が実施したような公募増資だと、利息の支払い義務が発生しません。これは、事業会社にとって大きな利点になります。当然、利払いが不要な資金は多ければ多いに越したことはありませんから、株価が高値圏にある時の方が、増資実施には好都合となります。これは、是非とも、頭の片隅に置いておいてよいでしょう。

前述した通り、「増資」に関する情報は、最も厳密に管理されなくてはいけない「法人関係情報」、つまり「インサイダー情報」に該当します。事前に漏れることは、万が一にも一切許されません。このため、増資を事前に察知することは不可能であり、もし保有株が増資を発表した時は「地雷を踏んでしまった」と諦めるしかありません。

ただし、増資を100%ネガティブに見る必要もありません。優良企業の場合であれば、増資により得た資金を投資に充当し、将来の成長機会が高まる可能性が高くなります。また、業績不振企業の場合であれば、増資により得た資金で資金繰りが改善し、危ぶまれた存続可能性が高まる場合もあります。こうしたことにも是非、目を向けるべきでしょう。

もし保有銘柄が増資を発表したらどうするか?

増資発表後の翌日の株式市場は、まずは、計算しやすい「希薄化率」(新規に発行される株数÷発行済株数)だけを株価に織り込もうとします。この希薄化率だけを反映させようとすると、株価は下落せざるを得なくなります。ただ、増資による将来の利益成長については、時間の経過に伴って株価に反映されていく、ということを覚えておきましょう。

このため、もし、保有している株が増資を発表して、発表翌日の株価が大きく下落した場合、まずは、慌てないことが大切です。そこで狼狽売りや投げ売りをすることは愚の骨頂となります。

また、関心を持っている銘柄が増資を発表し、その後の株価が、希薄化率以上に大きく売り込まれていたとしたら、その銘柄の公募増資に応じることも一案でしょう。各証券会社が提供しているアナリストレポートも参考にして冷静な判断をしたいものです(参考:「投資情報が充実した証券会社は?」)

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