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個人投資家比率の低い会社は買いか
株初心者(経験数ヶ月)で新浦安の駅に隣接する高層マンションに住む55歳の主婦・相場翔子(アイバ・ショウコ)さんが、西海岸に拠点のある外資系資産運用会社でファンドマネージャー暦のある株1博士(カブワンハカセ)にマンション1階のロビーで質問をしているようです。
今回は、銘柄選択をする際に、個人投資家が多い銘柄が良いのか、それとも外国人投資家が多い銘柄が良いのかを相談しているようです。それでは、聞き耳を立ててみましょうか。
個人投資家比率 vs 外国人投資家比率
相場:博士、この前人生で初めて株式を購入した話をしましたよね。
株1博士:おー、確か、トヨタ自動車じゃったな。
相場:そうです。その時に博士が、トヨタ自動車の個人投資家比率が12%程度という話をしてくれて、気になっていることがあります。
株1博士:ほう、なんだろうか?
相場:そもそも個人投資家比率が高い会社と外国人投資家比率が高い会社の銘柄を考えた際、どちらの方が投資対象として魅力的なのかしら?
株1博士:それは、いい質問だが、一概に答えるのは難しいなぁ。
相場:トヨタの個人投資家比率が12%は低いとは言うものの、プロ投資家である外国人投資家が購入している銘柄の方が簡単にいうとプロ好みということよね。
株1博士:うん、それは正しい。
相場:世界中のプロ投資家が可能性を見いだして投資をしている訳だから、投資妙味があるということよね?
株1博士:投資妙味があるかどうかは別として、世界中のプロ投資家のお眼鏡にかなっているとは言えるだろうな。
外国人投資家が大量に購入した株は上昇しにくい?!
相場:「投資妙身があるかどうかは別」、というのはどういうこと。
株1博士:これは、プロ投資家の間ではよく「外資系大手資産運用会社が大株主のリストに名を連ねると株価が上がりにくい」とも言われたりする。
相場:え、どういうことかしら?
株1博士:まあ、考えてみれば当然なのだが、「みんながこの会社は買いだ!」と気づいて株を購入している訳だから、すでにその会社の魅力は株価に織り込まれているということになる。したがって、外国人のプロ投資が期待する以上の業績が出てこなければ、なかなか株価は上がらないということになる。
相場:なるほどねぇ。株価に織り込み済みっていう訳ね。
株1博士:そういうことじゃ。
個人投資家比率の高い株は買いか?株主優待という蜃気楼
相場:じゃあ、個人投資家比率の高い会社の方に投資妙味があるということかしら?
株1博士:それもそうとは言い切れん。なぜならば、個人投資家比率が高いというのは、業績が良くない面を手厚い株主優待で取り繕っているケースもあるからなぁ。
相場:じゃ、どっちがいいとは一概に言えないじゃないの!
株1博士:だから、「一概に答えるのは難しい」といったじゃろ。
個人投資家比率を知るにはどうすれば良いか
相場:博士、もっと日本を代表する大企業の個人投資家比率とその特徴を教えてくれないかしら。
株1博士:まず、個人投資家比率を知るには、日本経済新聞社から出版されている「日経会社情報」を参考にすると良い。この中には、直近の個人投資家比率が分かるデータだけじゃなくて、過去の数字も載っているから比較し易い。
相場:あら。実は、この前、アマゾンで注文を出すときに東洋経済から出版されている「会社四季報」にしょうか迷ったんだけど、どちらが使い易いかしら?
株1博士:私の場合は、会社四季報に馴染みがあるが、最近の若い人の中には、「日経会社情報」にはQUICKコンセンサスがあるので、そちらの方が使い易いという人も多い。まぁ、好き好きかなぁ。あ、そうだ、相場さんに一つお得な情報を教えよう。楽天証券、マネックス証券、SBI証券は口座開設者に市場コンセンサス(IFISコンセンサス)と会社四季報のデータを無料で提供しているので、これを使わない手はないね。特に楽天証券は日経新聞や日経産業新聞などの記事をよめる日経テレコン21まで使えるので見ておいた方がいいね(参考「投資情報が充実した証券会社は?」)。
ファナックの個人投資家比率はわずか4%
相場:トヨタの個人投資家比率は12%ということだったけれども、他の会社はどうかしら?時価総額が大きな会社について教えてください。
株1博士:例えば、最近、株主対応の改善を準備しているファナックなどは、個人投資家比率はわずか4%だ。これは、トヨタどころではない極めて低い数字と言わざるを得ない水準じゃよ。
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相場:なぜ、そのような極めて低い個人株主比率の水準になるのかしら?
株1博士:一つには、ファナックの単元株は100株なのだが、株価が2万7,000円を超えていることを考えると、最小の投資額が270万円以上となる。これでは、多くの個人投資家が手を出せる水準ではないことが簡単に理解できるであろう。まあ、もっとざっくり言えば、ファナックの主に取り扱っている工作機械向けNCというのは、個人投資家にとって身近な会社でないことも影響しているだろうな。いずれせよ、最小投資額も事業内容も、個人投資家にとっては身近ではないな。
相場:なぜ、発行体(企業)は、個人投資家が手に届きにくい株価と単元株数を設定するのかしら?株価は分割すれば良いし、単元株も引き下げれば良いと思うのだけれど。
株1博士:簡単な話じゃよ。個人投資家に持ってもらいたくないというサインじゃ。最小投資単位額が大きくなってしまう会社には、個人株主数を増やしたくないとか、お金持ちではない投資家には投資家にはなってもらいたくない、という思いが込められているのではないかと思えるよ。
相場:えーっ、NISA(ニーサ)が始まって、日本国民の資産運用をこれまでの預金や不動産という極めて偏った運用を変えようという時に、発行体がそういうことでは困ったものよね。
株1博士:ははは。各会社にも事情があるので、一概にはそうとも言えないが、ファナックの場合は、米国ヘッジファンドのサード・ポイントに自社株買いを要求されたのが株主対応を改善させようというきっかけになったのは間違いない。いわゆる「外圧」じゃよ。
歓迎されない個人投資家。その理由とは
相場:個人投資家ってそんなに歓迎されない投資家なのかしら?
株1博士:まあ、今まではそうだったかもしれない。個人投資家の数が多ければ、株式の事務コストもかかるし、それに問い合わせや苦情の電話も多くなって、対応に困るからなぁ。
相場:なるほどねぇ、私みたいな素人が質問したらIRの人もかわいそうよね、いちいち答えるのは。
株1博士:以前は、外国人投資家比率の高い会社が、いわゆる「イケテル会社」と株式市場が思っていたことは事実じゃ。ところが、今の株式市場を見ると、そうでもなくなってきた感じがする。外国人投資家比率が高いことは「外圧リスクあり」の会社と見られているのではないだろうかなぁ。その意味では、個人投資家は安定経営を求める経営者から見れば「金の卵」のように扱われる時代になったと言っても過言ではない。
嫌われていた個人投資家が経営者にとって金の卵に
相場:えー、本当に?!
株1博士:実は、個人投資家比率に関して面白いデータがある。
相場:あら、もったいぶらないで、早く教えください。
株1博士:別にもったいぶってはいないぞ。日本を代表する企業の個人投資家比率は一様に低いのだが、安定的に経営するために個人投資家をしっかり囲い込んで、自らの経営安定策に取り込んでいる会社はいくつかあるんじゃ。
相場:たとえば?
株1博士:ソフトバンクは、個人投資家比率は29%、ファーストリテイリングは35%とグローバルで活躍する企業なので、外国人投資家が大部分を保有していて個人投資家比率は少なそうだが、しっかりと個人投資家が保有している。
相場:それはなぜかしら?
株1博士:基本的には、個人投資家比率が多ければ、敵対的買収時に経営陣の応援団になってくれる可能性が高い。また、業績が悪化する中で短期的な株価を狙っていたプロ投資家と呼ばれる機関投資家が投げ売りをする際に、個人投資家が購入してくれるケースも多い。
相場:へー、経営者からしてみても個人投資家の役割は重要なのね。
株1博士:おそらく、経営上考えられるリスクを考えた上で、ソフトバンクやファーストリテイリングのような会社はしっかりと個人投資家を取り込んでいるのではないだろうか。さすがといえる株主構築じゃよ。もっとも、ソフトバンクにしても、ファーストリテイリングにしても、創業者でもある経営者の高い持ち株比率が含まれているがな。
相場:え、じゃぁ、個人株主比率が小さな会社は敵対的買収リスクが高いといえるの?
株1博士:もし、敵対的買収を考えている会社が、現在市場でつけている株価に対してプレミアムを支払う買収を提案すれば、外国人投資家はドライだから、大部分が売却してしまうと思うな。まぁ、そのプレミアム次第だが。逆に、その買収提案に応じない理由を自分たちで探す方が難しいともいえる。下手をすれば機関投資家にお金を預けている年金基金等からは“なぜ応じなかったか?”の説明さえ求められるのじゃ。
相場:なるほどねぇ。結局は株価次第って訳ね。
自動車産業は大丈夫か
株1博士:今私が心配しているのは、自動車産業じゃよ。
相場:え、なんでかしら。そんなに個人投資家比率が低いのかしら。
株1博士:トヨタ自動車の個人投資家比率が12%という話をしたが、それだけではなく、ホンダは9%、日産は7%、デンソーは6%というように、一様に低くなっている。
相場:えー、トヨタよりも個人投資家比率が低い会社がゴロゴロしているじゃない。
株1博士:私などは、小糸製作所とピケンズの問題が記憶に残っているが、今の自動車産業の経営者はどうなのだろうかと勘ぐってしまう。特に、自動車部品メーカーが心配じゃ。こうした心配も、杞憂に終われば良いが…。
※個人投資家比率に関する数値はすべて日経会社情報2015年春号を参考にしています。
2015年6月7日 12:50 公開
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