相続で日本の個人投資家が減る?カギは被相続人へのIRというPR

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相続した株式の取り扱いが日本の個人投資家層を変える

新浦安に住む55歳の主婦・相場翔子(アイバ・ショウコ)さんが、65歳でファンドマネージャー暦35年の株1博士と今日も駅に隣接する高層マンションの1階で立ち話をしています。相場さんは、最近オンライン証券に口座をひらいた株初心者ですが、最近株1博士の調査プロセス入門を学びながらトヨタ株を購入しました。

今日は、なにやら株式の相続の話のようです。それでは、早速聞き耳をたててみましょう。

株初心者が日本株を相続する

相場:博士、今日はいつものような銘柄についての相談ではないのだけれど、一つ聞いていただきたい話があるの。

1博士:ほう、どんな話かね。

相場:先日、私の友人のお父様がお亡くなりになったの。それに伴って、土地や家屋の他に、お父様が運用されていた日本株や投資信託なども相続することになったの。

1博士:相場さんの年齢を考えると、お友達でもそういう話も出てくるだろうな。

相場:友人の実家は、兵庫の高級住宅地にあるのだけれども、相続する土地の広さを考えると兄弟3人で分けることは現実問題難しいし、ご実家のある自治会はそもそも周辺の景観を守るために分割することにうるさいので売却することにしたんですって。

1博士:まあ、この新浦安のあたりでも、同じような話が出てきているなぁ。ところで、何の相談だったかのう。

相場:そうそう、話がそれてしまってすみません。

1博士:いやー、相続の話は最近私の周りでも多いよ。本当に。

相場:実は、相談内容も相続なのよ。私の友人のお父様は、日本株の運用が好きだったようで、10銘柄くらい持っていたらしいの。その中にはお父様が以前勤務されていた財閥系化学メーカーの株式も含まれているんですって。相続した後に銘柄を保有し続けるか、売却してしまうかで迷っているって、LINEで相談されたの。博士どう思う?

1博士:ご友人がどういった銘柄をお持ちなのか分からないので、コメントのしようもないが、上がると考えている銘柄は持っておけば良いし、よく知らない銘柄などは売却しても良いと思うがね。ネット証券には、口座を開設すれば投資情報を無料で読むことのできるサービスもあるので(「投資情報が充実した証券会社は?」を参照のこと)、ご友人に教えてあげたらどうかな?

愛着のある父親が昔つとめていた会社の株式も売却対象に

相場:博士ならそう言うと思ったわ。私も博士から教わっている通りに、同じように返事をしたの。ただ、友人は株初心者どころか、これまで全く株式の取引をしたこともないし、特に株には興味がないといってるの。アベノミクスで相続する株式も結構上昇したんで、全部売却したいんですって。

1博士:お父様の勤務されていた会社の株はどうするのかのぉ。ご家族でも、愛着がおありだろうに。

相場:それがね、当然愛着はあるのだとは思うんだけど、兄弟の間でもその株だけを持っていてもねぇ、という感じらしいの。いちいち考えるよりは、全部売却してしまおうという話になっているらしいのよ。

1博士:まあ、普通はそうなるだろうなぁ。特に兄弟が多い場合はそうかもしれん。実は、相続後の株式売却は、日本の個人投資家の基盤を揺るがしかねない問題になるかもしれんのだよ。

相場:えっ、それはどういうこと?!

1博士:考えてもみてくれ。現在、日本の個人投資家でそれなりの資産を運用しているのがシニア層だとすると、今後10?20年で相場さんのご友人のような相続と同様の状況になる。その際に、子供が相続して、すぐさま売却するようなことが頻発するとどうなるだろうか。

相場:株式市場で売却できるということは、他の投資家が購入するということだから別に問題はないのじゃないかしら。

1博士:確かに、相続後に個人投資家が売却して、個人投資家が同数の株式を購入してくれれば、個人投資家数や持ち株比率は変らないだろう。ところが、そうして売却された株式を外国人株主が購入した場合はどうであろうか。

相場:個人投資家の数は減るわね。

1博士:その通り。

トヨタが初めて個人投資家を開催した理由とは

相場:でも、それって問題なのかしら。発行体からしても、外国人株主が増えて、それでよし、という感じもするけれども。

1博士:相場さん、以前に話をした、トヨタ自動車がなぜ初めて個人投資家向け説明会をしたのかを思い出してみてくれ。

(「トヨタ自動車はなぜ初の個人投資家向け説明会を行ったのか?ヒントは「意志ある株主選び」」を参照)

相場:ああ、そうだったわ。米ISSやグラスルイスのような議決権行使助言サービサーなんかが経営陣に対して反対意見を言うようになると、「時として扱いにくい多勢」になるということだったわね。

1博士:つまり、シニア層の株主が多い企業は、相続の際に売却されないようにIR(インベスターズ・リレーションズ)という形でより投資家層だけではなく、相続するであろう子供世代に会社のPRをしていかなければならないんじゃ。

相場:なるほど、だからトヨタはこの前の個人投資家説明会で学生も参加OKにしたのかしら。

1博士:うん、その可能性は高いな。

IRとSRの違いとは何か

相場:でも、私の息子は今25歳だけれども、仕事を覚えるのに必死で株式運用に割ける時間は少ないと思うわ。

1博士:これは私も常日頃考えているのだが、今のIR(インベスター・リレーションズ)は、潜在投資家層へのPRであるべきなのに、ほとんどSR(シェアホルダー・リレーションズ)になっているということじゃよ。

相場:博士、ごめんなさい、IRとかSRとか難しくてよく分からないわ。

1博士:IRというのは、現在の株主だけではなく、今後株主になってくれそうな投資家層に向けて、会社がどういう状況になるのか、また今後はどのような戦略で経営者が経営を考えているのかを説明するのが主な役割じゃ。

相場:じゃ、SRって何かしら。

1博士:既存株主への対応とったところだろうか。

相場:つまり、本当はIRが潜在投資家層を拡げていくべきであるのに、目の前にいる投資家への説明に終始し、会社の魅力をより広い層に伝えきれていないということかしら。

1博士:そうじゃ。会社によって事情は異なるであろうが、経営者が意識をして投資家層を拡げなければ、株主層は広がらないと思う。

相場:では、経営者が株主をどうしたいかと考えることが必要ね。あ、だから前回のトヨタの記事のタイトルは「意志ある株主選び」だったのね。なるほど。

2015年6月7日 12:50 公開

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